香港の老齢基礎年金制度の問題
新自由主義を標榜としていた香港が、中国本土の社会主義の影響からから終身年金、香港版の日本の老齢基礎年金制度の設立が議論されている。日本のように一定期間保険料の支払い期間を満たした者が、死ぬまで受取ることができることを指すが、制度維持のため保険料とし「退保税(終身年金税)」新たに賦課すると、65歳以上の高齢者へ毎月3,000香港ドルの「基礎年金」の給付が終身可能とする研究が報告されている。
こういった新税制の答申は各界から激しい反発の声が上がっている。兼ねてより税負担の低さが香港の競争力の源泉の一つでもあるため、当該年金税制の実施となれば経済界の税負担が増加し、香港の競争力を損なう事となろう。
今回の「退保税(終身年金税)」の答申では給与所得からの源泉徴収制とし、原則として「収入が多いほど納税額・保険料が多く」累進課税方式なり、月給が12万香港ドル・徴収額も3,000香港ドルが上限となり、明らかにこの「年金税制」は公平ではなく、意図的に労働者・中産階級が負担増になるものとなる。香港では元々中産階級が得られる福利厚生は多くはなく、加えて現在では毎月MPF(強制退職積立金制度)の積立方式の年金制度への加入が義務付けられているため、「年金税制」は中産階級の経済的負担を確実に増加させるだろう。したがって中産階級はいやでも消費を減らし、香港国内経済に悪影響をもたらすことになる。
高齢化対策と年金制度
高齢化の主な要因は晩婚化と出産意欲の低下であるが、出産を望まない原因はいくつか存在しており、経済的負担もその中に含まれる。
実際、香港での子供の養育にかかる費用は諸外国に比べ甚だしく、教育費のほか、衣食住のなか香港本来の問題である土地の少なさから住に占める割合が非常に高く費用がかかるため、ひとたび「終身年金税制」が打ち出されれば、家計の重い経済的負担は確実になり、ほとんどの階級での出生率を押し下げるため、実施は高齢化問題を更に拍車をかける可能性がある。
人口問題の解決には、ただ単に終身年金制度の設立だけでは不十分であり、政府はその他の手段と組み合わせて出生率を押し上げる必要がある。
上述のマイナス影響のほかその他の問題も引き起こす可能性が有る。
例えば10年間「終身年金税」を納付した1名の被雇用者がいると仮定し、毎月の保険料が3,000ドルなので、もし納付し保険料・税の全額を回収したい場合、少なくとも65才から75才まで生きていかなければならず、もし75歳前に死亡すると、相続できるのかどうかを含めて設計しなければいけないことになる。