老鼠倉の規制が影響
HSBCが発表した5月の中国製造業PMI(購買担当者景気指数)速報値は49.7に上昇し、ここ5カ月の最高値となった。中でも新規輸出受注指数のほか、新規受注や生産高の指数で、いずれも50以上を上回り、国内外の需要がある程度増加していることが反映されている。製造業のデータが好転したものの、その要因は周期的なものである可能性が高いため、現段階で中国経済が底打ちになったと看做すにはまだ早いと言える。
経済成長が減速する際、内需が弱化し、在庫処理による影響を受け、製造業が一時縮小してしまうのは正常な現象だ。在庫が一定水準まで減少すれば、企業は在庫の補充を開始し、弱化していた製造業の好転へと繋がる。このためもし5月のPMI指数の上昇が、企業の在庫補充によるものだとすると、ある程度の在庫量を回復した後に、製造業は新たな縮小の流れとなるはずだ。つまり、中国経済が底打ちとなったか否かを判断し確定するには、単に1、2回のPMIデータを見るだけでは十分ではないということだ。
データを詳しく見てみると、雇用データが一層悪くなっており、製造業の指数の好転にも関わらず、雇用状況が今なお悪化していることが見てとれる。当然、雇用市場は長期間停滞していることから、この先月数カ月間のデータが特に重要となろう。もしこの先の製造業PMIデータの好転にもかからず引き続き雇用市場の改善が見られなかった場合、中国経済が本当の意味で減速から脱するのは難しくなるだろう。李克強首相は、雇用促進を何度も強調しており、雇用促進には経済の底上げが必要となるため、中国人民銀行(中央銀行)は市場への資金注入を実施し、目下の景気の下方圧力の緩和を図っている。 HSBCのPMI指数が好転し、中央銀行による資金注入も見られる中、A株にはまだ大きな動きも見られない。投資マインドが今なお慎重である理由は、中国内で「老鼠倉」(ラオシューツァン:金融取引関係者による短期利鞘を狙う不正取引)の取り締まりが強化されている事と関係がありそうだ。長期的角度から見れば、「老鼠倉」の動きを一掃することは、A株の市場からの信用を取り戻し、投資家マインドの回復にとっても一定の効果があろう。しかし、取り締まりが行われる過程で、この先「老鼠倉」の取引に関連する人の資金が、短期取引によるサヤ取りから距離をとると見られ、A株相場の重石となる可能性が有る。