香港リンクド為替相場の未来
リンクド為替相場制度(Linked exchange rate system)いわゆるドルペッグ制が香港で施行されてからちょうど30年となり、制度の良し悪しは度々論議を巻き起こしてきた。
正直に言って、いかなる制度であっても優劣はあるもので、それゆえに、香港のリンク為替制度施行の良し悪しについては客観的なよい回答を得難い。リンクド為替相場制度の施行後、香港は独自の金融政策(Monetary policy)を失い、香港の金利動向もやむなく米国の金利に追随せざるを得なくなった。
こういった状況を受け、香港は自身の経済環境に合わせた政策金利(Bank rate)の変更が不可能となり、これこそリンクド為替相場が香港にもたらす最大のデメリットである。しかし、例えば98年のアジア通貨危機のように深刻な経済危機が発生する際、リンクド為替相場は市場の信頼を落ち着かせる効果を最大限に発揮する。
近年、度々香港政府にリンクド為替相場の再検討を求める声が上がっており、制度そのものの中止を求める者や、香港ドルの人民元へのリンク制を提案する者もいる。いかなる経済モデルであっても、通貨制度の変更は決して容易では無い。もし軽率に対ドルとのリンクを取りやめてしまえば、ビジネスパーソンや投資家達が香港ドルへの信頼を失い、香港の経済発展に不利となってしまうだろう。
香港は対外開放型の経済モデルであることから、香港ドルの安定性が非常に重要だ。つまり制度に何らかの問題が有るからといって、制度の放棄を選択することが賢明な決断であるとは限らないのだ。
過去10数年で中国本土経済が急速に発展し、人民元の影響力も日増しに拡大していることから、香港ドルが人民元へのリンクを採用する方が当然理に叶う。しかし、人民元は未だ全面的な自由化はされておらず、米ドルと比較して各国の保有通貨としての役割を担っていない。言い換えれば、人民元が全面的な自由化となるまでは、まだ香港ドルが人民元とのリンク制を採用する適切な時機ではないのだ。加えて、中国本土経済は現在構造改革を進める重要な時期で、現行のドルリンク制は香港が中国構造改革を支持する能力を強化させている。相反して、もし香港ドルが人民元とのリンクを採択した場合、ひとたび中国本土の構造改革に問題が発生すれば、香港が中国本土をサポートする能力は激減してしまう。結局、現段階ではドルとのリンクを見直す必要性は見えてこない。