シリア問題を踏み台にする
米国が近日中にシリアへ空爆を実施する可能性が有るとするニュースが世界の株式市場に衝撃を与えている。投資家にとってみれば、地政学的リスク(戦争や紛争)はさして目新しい物ではなく、戦争や紛争が関与した国々の経済構造にインパクトを与え、金融市場に長期的影響を与えるかどうかが問題となってくる。
過去十数年の間で、人々の記憶に生々しく残る地政学的リスクの事件といえば「9・11」のアメリカ同時多発テロ事件や、アフガニスタン紛争、イラク戦争だろう。これらのテロや戦争はその後の米国及び世界の経済発展に一定の影響をもたらした。
「9・11」テロ事件の発生後に米国社会が恐慌に陥ったため、当時の米FRB議長グリーンスパン氏は政策金利引下げを実施し市場の信頼を回復させていったが、この政策金利引下げに踏み切ったことがその後の危機やリーマンショックをもたらす元凶となってしまった。
アフガニスタン紛争とイラク戦争では、米軍が遅々として戦地から全面撤退できずに、巨額な軍事費の支出が米国の財政負担として重くのしかかっている。過去の教訓を踏まえれば、オバマ政権がシリアに大規模な介入を行う可能性は低いと見られる。米国内のメディアによると、シリア空爆を数日間だけ実施すると報じており、明らかにワシントン政府はシリアへの大規模な介入に消極的であることが伺える。
ここ数カ月、市場は米FRBが9月に国債購入規模の縮小を行うかどうかに関心を寄せているが、米国が10月に再び「財政の崖」に直面することも焦点の一つとなっている。米国のシリア空爆は、これらの焦点をぼかす狙いがあると見られ、実際米国が空爆に踏み切れば、米国民のいつものナショナリズムに作用することになる。景気下降圧力から免れるべく、米FRBは短期で緩和策縮小を行わないとする可能性もあるだろう。このほか、シリア問題がワシントン政府に債務上限問題を解決、つまり引き上げチャンスを提供することも考えられる。
ワシントン政府は世界の警察としての正義の任務遂行の必要性にかこつけて議会に債務上限の引き上げを要求する可能性があり、「正義(Justice)」の旗を高く掲げられてしまえば、議会は否決する理由を見つけられなくなり、シリア問題は最終的に米国の自国問題解決のために利用される可能性があることを理解しければならない。