キプロス預金税で資金流出
しばらく落ち着いていた欧州債務危機にまたもや波瀾が起こった。
キプロス政府が銀行預金者に対し預金税徴収の実施を発表。これを受けてユーロ圏内の銀行で取り付け騒ぎが勃発するのではという市場懸念が生まれ、欧州経済が再び危機にさらされている。キプロスは欧州内の小国であり、ギリシャやイタリア、スペインなどの欧州PIIGS国家と比べその影響力は遠く及びはしない。しかし預金税徴収が資金の流れに波風を立たせる効果は大いにあるのだ。
今回キプロスが発表した預金税が社会に極めて大きな反発を引き起こしたことをふまえれば、当然、ほかの欧州各国は短期間の内に同様の措置を行うべきではない。
しかし、キプロス政府が銀行預金者に目をつけたことを目の当たりにし、ユーロ圏内の多くの人々は自国でもどのみち同様の徴税措置が実施されると懸念しているはずで、預金を守るため、ユーロ圏外の国に預金を移す者が出てくる可能性もあるだろう。
ひとたび資金流出の流れが発生すれば、欧州の各銀行や経済が受けるインパクトは想像にたやすい。以前フランス政府が富裕税徴収を行い、すでに多くの富裕層が国を後にしている。もし再び預金税が実施されるとなれば、新たな資金逃亡の潮流が発生する可能性が高い。
キプロスの住民は政府の手法を「略奪」と形容し、同時に政府へユーロ圏離脱を求める声が高まっている。預金税徴収の発表後、預金者は次々にATMから口座の預金を引き出している。ある報道では、キプロスにある預金のうち三割がロシアの商人や政府関係者らが持ち込んだ資金であるため、ロシアの政府首脳陣は預金税徴収のやり方に強烈な不満を表しており、この一件はすでに外交面にまで影響していると指摘している。
預金税か富裕税かに関わらず、目的はすべて政府の収入を増やし財政状況を改善することにある。だが、もし徴税措置が資金流出を誘発するのであれば、政府の収入はかえって減少する可能性が高くなり、欧州債務危機の解決にとって少しもメリットは無い。キプロスの社会的反発から、現地政府は周到な熟考がないままに預金税を実施したと見られる。キプロスの誤ちを繰り返さないよう、今後すべての財源確保及び、支出削減計画の実施前には、欧州各国政府の更なる慎重性が求められるに違いない。