支援要請なくして国債購入
一時的に平穏な欧州債務危機だが、少し前にまたもや波乱が起きた。スペイン10年債利回りはいっきに6%を再度、上昇突破し再び欧州信用不安を誘発しだした。
ECB(欧州中央銀行)の無制限国債買い入れ策の発表以降、スペインとイタリアの国債利回りが急速に低下したため、世界の投資家心理は好転。しかし、スペインが遅々と支援を要請していないため、市場はECBの国債購入プログラム(Outright Monetary Transactions; OCT)に対し、スタートの切りようが無いのではと懸念している。ECBの国債買い入れの規定には、もしいずれかの国がECBに国債買い取りを要請すれば、その国は支援要請と同時に、一連の緊縮政策に必ず同意しなければならないとされている。言い換えると、スペインが一日でも早く支援を要請しなければ、ECBの国債買い入れ策は、まるで名ばかりの存在となってしまうのである。
スペインが今なお支援を要請していない理由は2つある。第一に、スペイン政府は緊縮措置を実施したくないということ。そして第二に、国債利回りがピーク時に比べ低下したことで、支援の要請を一時的に見合わせられるようになったことが挙げられる。
テレビのニュースによれば、スペイン市民は連日街頭デモを行い、政府の緊縮政策実施を抗議している。民間から緊縮政策実施の賛同を得られないままでは、政府が緊縮政策を固持するようなことは政治の自殺行為に等しい。有権者の敵とみなされないよう、スペインの権力者はできるだけ支援を求めるタイミングを遅らせているのだ。そして、国債利回りがピークから大幅に低下し、利息コストが軽減するに従い、スペイン政府は支援を要請するか否か、および、いつ支援を要請するのかを考慮するより多くの余裕と時間を得たのである。
スペインが支援要請問題において「のろま」なため、市場が次第にしびれを切らし、国債利回りが再び6%を上回った事実はこれを反映したのである。国債利回りがさらに上昇すれば、スペインの支援要請への圧力もさらに強まる。市場は国債利回りを押し上げることで、スペインに早々の支援要請するよう追い込むことができるだろう。さしあたって、スペインは支援要請しておらず、イタリアも同様に「のろま」な状況だ。スペインの国債利回りが上昇するにつれ、イタリアの国債利回りも上昇している。しかし、イタリアがスペインよりも先に支援を要請する可能性は高くない。その理由は、先にスペインが支援を要請した後の結果いかんによって、イタリアはようやく自国が支援を要請するかどうかを見極めたいからである。