地方政府の債務問題
2008年の世界を襲ったリーマン・ショック後、中国政府が4兆元規模の景気刺激策を打ち出した結果、世界経済を牽引すると同時に中国経済は急速な回復を見せたものの、後遺症として地方政府の債務問題が残っている。この地方債務問題が近年の投資家心理を圧迫しており、中でも最も影響を受けていいるのは本土系銀行銘柄となっている。長期的安定成長を確実なものとしたい中国政府は、積極的に様々な改革を打ち出しており、その中でも地方債務問題の解決を主要な改革においている。地方債務問題に対し、財政部は各地方政府が発行した債券を地方政府の自己責任において償還させる「自発自還」政策を試験的に実施するとし、試験対象は10地方からのスタートとなるが、今後は徐々に対象を増やしていき、最終的には全国的政策になると予想される。
地方政府に信用格付けを導入
これまでの地方政府の債務問題に対する取り組みは透明性を欠いており、債券発行によって得られた資金の使途が多くの場合で詳細不明となっており、「自発自還」政策の実施により、地方政府に財政状況の公表などの情報開示させ、地方政府自ら債務管理を強化させるのが狙いだ。また「自発自還」政策では地方政府の債務状況に対し信用格付けを行う予定で、格付け確定後には各地方政府の債務状況が一目で分かるようになるはずだ。
本土の格付け制度では地方の債務状況を「3等級9段階」に分けるとし、スタンダード&プアーズやムーディーズ、フィッチ・レーティングスなどの国際的信用格付機関と同様のランク分けを採用している。地方政府における財政状況の透明性が高まれば、地方政府の債務不履行(デフォルト)リスクをより評価しやすくなると見られ、投資家にとっては好ましい事だと言えよう。
一方でここ数年、中国本土の不動産業界は異常な盛り上がりを見せ、大小を問わず各省市で活発に住宅関連産業が成長していきた。不動産業界の加熱に伴い、住宅不動産関連のプロジェクトが地方政府の主力財源となっている。そのうちの不動産売買を例に挙げると、ひとたび住宅不動産市場が落ち込めば地方政府の財政が困窮する可能性が高まってしまう。今後、格付け制度が導入されれば、格付け如何によって債券発行による資金調達コストに影響が出てしまうため、より高い格付けを得るべく、各地方政府は不動産以外の産業を拡大させるなどの財源改善の努力が必要となろう。つまり「自発自還」政策及び格付け制度は、地方政府により成長戦略の再考を促す効果が期待でき、国家経済の競争力にもプラス影響をもたらすだろう。しかし、格付け制度導入の初期において、いくつかの地方政府は確実に低めの格付け評価を受けることになるため、投資家心理にダメージを与える可能性は否めない。
不良資産管理会社
ミクロの視点から見れば、格付け制度の実施によって、不良資産管理会社はより効果的にリスク管理を行えるようになり、業界全体の健全な発展が見込めるだろう。銀行の不良債権に至っては、過去2年増加の一途で総額5千億元以上となり、大手銀行の不良債権比率は1%以上に上昇しているため、不良資産管理会社は低価格で不良資産を買い取る機会が広がっている。また、経済改革を進める過程で、今後数年においても銀行が抱える不良債権の規模が拡大すると予想されており、不良資産管理会社による不良資産の買い取り機会が今後も続く可能性が有るといえる。買い取り資産がこの先完全な不良債権にさえならなければ、経済が回復する際に不良資産管理会社は実に大きなリターンを得られるであろう。
このほか、不良資産管理会社はしきりに非金融機関の不良資産を買い取っているため、事業リスクの分散も見込める。本土の非金融機関の不良資産は7.6兆元から10.9兆元へ増加しており、こういった巨大な供給もまた不良債権処理会社に大きな成長の好機となり、債権処理業界において、非金融機関の不良資産事業の成長を注目すべきである。