米国はQE加速はない
就任したばかりのイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が公聴会に出席し、「米国の労働市場は完全な回復から程遠い」としながらも、改めて緩和策縮小を段階的に実施することを表明した。
最近発表された失業率が6.6%に低下したため、FRBが緩和策縮小ペースを加速するのではといった声もあったが、イエレン議長の議会証言はこういった市場の懸念を和らげた。米国の失業率の低下は、実際ほとんどが労働人口の減少によるもので、米国では今なお多くの人々が長期にわたり失業しており、雇用者数の伸びも深刻だ。上述の状況が改善されるまでは、FRBが単純に失業率の低下だけで量的緩和(QE)縮小のペースを加速させる可能性は低いと見られ、政策金利引上げも然りだ。
量的金融緩和政策の実施から現在の撤退の実施に至るまで、一番の勝利者は米国となる。政策実施の初期段階を振り返ってみると、数多くの分析結果でこの金融政策は米国経済の助けとならず、更に長期的で悪性のインフレをもたらすと見ていた。数年経ってみると、米国の労働市場は継続的に改善し、悪質なインフレも起こることなく、米国株は最高値更新を繰り返したことから、FRBによる非常事態への対処法が正しかったことが反映している。欧州や日本の中央銀行も米国と同様に無制限の量的金融緩和を実施しているが、結果を出せるか否かはまだしばらく様子見が続く。
FRBによる量的緩和の縮小開始前には、米国債利回りの上昇懸念から、米国の経済回復が阻害するのはとする懸念の声もあった。米国にとって都合よく、FRBが量的緩和縮小に踏み切るとしたところ、大量の資金が新興国市場から米国へと逆流をはじめ、この流入資金がFRBの債券の購入規模縮小に伴う市場の資金不足を補うだけでなく、同時に国債金利をも低く抑えられていることに成功している。現時点で、米国の国債金利は緩和策縮小の前よりも低水準に推移しており、緩和策撤退が米国の重石になるという予想は明らかに見られない。当然、引き続き量的緩和が縮小され、最終的にどのようにランディングするかは知りようもないが、少なくとも現在のところ、FRBは量的緩和策の縮小というこのゲームで有利な立場に立っていると言えよう。対照的に、都合の悪い新興国市場では資金が流出し、通貨及び資産価格の下落の脅威に直面している。