香港の金融リスク管理 / Financial Risk Management in Hong Kong

香港の金融機関(Financial institutions of Hong Kong)が高水準のリスク管理システムとプロセスを実施できるように、香港の規制機関(The regulatory bodies in Hong Kong)が重要な役割を果たしています。

リスク管理システムとプロセス Risk Management Systems and Processes

認可機関(Authorised institution)、証券会社(Brokerage house)、投資ファンド会社(Investment fund company)のような様々なリスク監督管理に対して、それぞれの規制の枠組み(Regulatory frameworks)を設置しています。

香港金融管理局 HKMA: Hong Kong Monetary Authority/金管局

監督管理及び認可機関であるHKMAの「監督管理政策マニュアル(Supervisory Policy Manual)」には様々なガイドラインが示されており、そこにはリスク管理の最低標準(Minimum standards)や最良慣例(Best practices)が含まれています。
1995年以来HKMAでは、自己資本比率(Capital adequacy)、資産の質(Asset quality)、管理(Management)、収益(Earnings)と流動性(Liquidity)を評価するための国際的な認知枠組み(International recognised framework)である、CAMEL評価システムを導入しています。

証監会;証券及び先物事務監察委員会 SFC: Securities and Futures Commission/証券及期貨事務監察委員会

SFCは、証券と先物業界への規制や、これらの市場の発展を促進し奨励する責任を負っている法定の機関です。 SFCは証券や先物業界にリスクベースの規制(Risk-based regulation)を採用し、つまり、リスクが最も高いエリアを確定(Identifying)した上でリソースを集中(Focusing)しています。

香港のペイオフなので投資家保護

銀行が破綻した場合の預金者保護のための仕組みに、ペイオフ制度があります。日本では1971年にペイオフ制度が始まり、保護の対象となる預金額が順次引き上げられ、現在では1金融機関あたり1名義で1000万円を上限として保護されます。

銀行預金

日本の預金に対してのペイオフは最大1000万円で、外貨預金は対象外である。一方、香港ではDeposit Protection Scheme(DPS)/存款保障計画と呼ばれており、外貨も保障の対象となり一名義に対して最大50万香港ドル。口座が共有名義の場合、保障はダブルになる。

証券会社の分別管理

日本と同様に、顧客の金銭や株式や債券、ファンドなどの有価証券を証券会社固有の資産と分けて管理することが義務付けられているので、銀行の普通預金よりも安全に保護される。つまり、倒産しても何ら影響はない。

保険会社の保護機構

保険会社が扱う有価証券も証券会社と同様の分別管理が義務付けられているほか、保険会社自体が財務基盤の強化や再保険(保険会社が保険をかける)などでリスクをヘッジしている。
保護機構に関して、香港は保険会社が倒産したことがない(必ず他社に買収される)ことと、過保護は保険会社に対してもモラルハザードを誘発されるのを懸念して、日本の保護機構のような団体は存在していない。しかし、今は設立の計画が持ち上がっている。具体的には、Hong Kong Insurance Authority/香港保険業監管局によって2018年1月1日から 強制的な保険料のLevyで税金が導入されていることもあり、保護機構の基金の成立につき2023年の法制審議会に提出される予定である。
その名称はPolicy Holders’ Protection Scheme(PPS)/契約者保護制度と呼ばれており、保護限度額の詳細は、最初の10万香港ドルまでは100%、残りは80%、合計100万香港ドルを予定している。

証券会社の香港の投資者賠償基金/Investor Compensation Fund

銀行の預金と同じく、補償上限が50万香港ドル。口座が共有名義の場合、保障はダブルになる。
証券口座と先物口座は別個に扱われる。
例えばシナリオ – 証券口座と先物口座の両方を保有する場合
張氏は、ABC証券会社に預けられたデフォルト日時点で60万香港ドル相当の株式を保有しており、また先物契約取引のためにABC証券会社に30万香港ドルの現金を預けている。ABC証券会社が債務不履行に陥った場合、張氏の補償限度額はどのようになりますか?
証券口座と先物契約口座のそれぞれについて、投資家一人当たりの補償限度額50万香港ドルに基づき、張氏の補償限度額は、証券口座で50万香港ドル、先物契約取引で30万香港ドル、すなわち合計80万香港ドルの補償が支払われることになります。

リスク管理テクニック Risk Management Techniques

次に、日常業務上のリスク管理において実践的テクニック・スキルを理解しましょう。

市場へのマーキング Marking to Market/市値計価

これは、現在の市場価値(Current market value)を反映するために、顧客の担保価値(Collateral value)を再評価するプロセスです。例えば、先物証券会社(Futures’broker)は、顧客の委託保証金;委託証拠金(Margins requirement)が維持証拠金(Maintenance margin;保証金下限)を下回った(Fall short)場合、マージン・コール;追い証(Margin calls)が行われるように、定期的に顧客の未決済約定(Open position;未平倉合約)を確保しなくてはいけません。 特に市場が劇的に変化する時には、市場価値をよくマーキング(Frequent marking)しなければなりません。
※マージンコール(Margin call)は、「追い証」とも呼ばれ、信用取引や先物・オプション取引、外国為替証据金取引、CFD取引などにおいて、差し入れている委託証据金の総額が、相場の変動等によって必要額より不足してしまった場合に追加しなければならない証据金のことをいう。

リミットの設定 Limit Setting/設置限額

金融仲介機関の市場リスク(Market risk)は、取引限度額の設定(Setting trading limits)を通じて予め制限(Limit;控制)できます。例えば、取引制限・建玉制限(Position limit;持倉限額)は、証券仲介業者の顧客が取り得る最大の未決済約定(Maximum open position;最大未平倉合約)であります。また、日中やオーバーナイト・リミット(Intraday and overnight limits)などさらに多くの詳細な制限(Limit;控制)を設定できます。ストップ・ロス・リミット(Stop-loss limit;止蝕限額)もロスを制限(Limit;控制)するために常用されるテクニックで、設定後、一旦、予め定めたロス・レベル(Pre-defined loss level;預設虧損水平・予平倉)に達するとポジションを清算(Liquidating a position)します。
※オープンポジション(Open Position)とは
オープンポジションとは、反対売買や手仕舞いなどをせずに残っている建て玉のことを指す。
※Position limit(ポジション・リミット)とは
1個人が保有しているその商品の、各限月または全限月合計の差引建て玉の買い約定または売り約定いずれかについて、取引所またはCFTCが定めた約定枚数の限度のことをいいます。また、Rading limits(取引制限・建玉制限)ともいいます。

ヘッジの設定 Hedging/設置対沖

派生金融商品(Derivative)を利用しヘッジ (Hedge/対沖)し、予測と反して逆に振れる価格変動の影響を最小限にとどめることができます。例えば、株式市場が短期的に下向きの補正があると予想したファンド・マネージャーは、ポートフォリオ価値(Portfolio value)の潜在的な下落をヘッジ (Hedge/対沖)しようと、短期株価指数先物(Short stock index futures/指数期貨)で信用売り(Sell)を実行します。
その後、本当に株式市場が下がってしまった場合(Stock market drops)、短期株価指数先物(Short stock index futures contracts;指数期貨合約)からの收益(Gain)によって、ポートフォリオ価値の損失(Loss in value of the portfolio)が相殺(Offset;彌補)されることになります。
※オフセット(Offset)とは、
オプション・先物のポジションと同一の条件の逆のポジションをとり、ポジションを相殺すること。

過去から学ぶ Past Experience

金融危機事件(Incidents of financial downturn)はリスク管理の重要性を思い出させてくれる参考となるので、実例でさらに説明します。

ベアリングス銀行 Barings/霸菱

1995年ベアリングス銀行 (Barings Bank)が一夜の内に破産し、これは管理リスク(Operational risk)の典型例です。ベアリングスのトレーダーの一人が、トレードだけにとどまらず、トレードの決算も責任を負っていたので、こっそり無授権に先物取引を行うことができた。事情が明るみになると、すでに銀行は巨額損失を受けていました。
この事件はリスク管理のプロセスと手続きのなかで、職務分掌(Segregation of duties;職責画分)の重要性を示しています。いかなる違法取引もすばやく発見できるよう、事業部門(Business unit)は、ここではディーリング部署;Dealing department)、リスク管理部署(Risk management unitここでは決算部門;Settlement department)と必ず分離する必要があります。

アジア金融危機 Asian Financial Crisis in 1997-1998/亞州金融危機

前世紀の90年代には東アジア諸国(East Asian countries)の急速な経済発展のため、当該地域には外国人投資家からの大規模な資本流入(Large inflows of capital)が発生しました。残念ながら、この資金は当該地域において効率的に投資されず、銀行は親族(Family members)や政治団体(Political affiliated parties)にずさんに融資していまい、収益率が低いだけでなく、借り手がデフォルトに陥った資金が急増してしまいました。いったん外国人投資家が、資産を売却し資金の回収を始めてしまうと、この地域の通貨(Regional currencies)に投機的な攻撃が始まりました。
この事件は、銀行が借り手のデフォルトの可能性(Chance of default)を評価する際に、その信用リスク(Credit risk)の評価に甘く見ただけでなく、リスク管理の重要性の無知であったと言われています。その他、危機による極端な金利と為替レートの動き(Extreme interest rate and exchange rate movement)は、金融機関に大きな市場リスク(Market risk)を引き起こし、いくつかの地元の証券会社は、当時の市場リスクの過小評価(Underestimation)のために、この期間に破たんしてしまいました。

2008年金融危機 Financial Tsunami in 2008/金融海嘯

2006年の末までの米国不動産市場の天井(Peaking off)の後、世界金融市場(Global credit market)は2008年に酷い打撃を受けました。不動産新規購入者に持続不可能な価格での水準で引き受けさせていたと同時に、不動産ローンのデフォルト率(Default rate of property mortgage)が増加してきました。不動産購入者への融資に積極的であったそれらの企業に対して市場は特に信頼を失いました。
2008年3月にベアー スターンズ(Bear Stearns)の倒産後、市場の信頼(Market confidence)は悪化し続け、2008年9月のLehman Brothers(リーマン•ブラザーズ)の破綻は、最終的に世界的な信用収縮(Global credit crunch)を引き起こすことになりました。これもリリスク管理の重要性を示していると言えます。
デフォルト リスク(Default risk)と市場リスク(Market risk)の間違っ評価(Wrong assessment)は一見難攻不落であるかのような金融機関の崩壊につながる可能性があることを示しています。

展望 Looking Ahead

2008年の世界的な信用収縮(Global credit crunch)の下で、香港の銀行システムは、基本的に平常を保っている。これはおそらく業界内のリスク管理意識(Awareness of risk management)の絶え間ない高まりがあったことが起因しています。
しかし、リーマン•ブラザーズ(Lehman Brothers)の破綻は、香港にミニ債券危機(Minibond crisis)を引き起こしている。これは、金融機関(Financial institution)のみが金融リスク管理(Managing financial risks)に注意を払うべきではないことを更に一歩認識させてくれ、また、法的リスク(Legal risk)、評判リスク(Reputation risk)、システミック リスク(Systemic risk)のような他のリスクも同様に重要となります。金管局(HKMA)や証監会(SFC)、香港保険業聯会寿険総会(HKFI)はそれぞれ投資商品の募集と販売に対してもリスク管理に関してガイドラインを設けています。